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こんにちは!栃木県宇都宮市の保険薬局で管理薬剤師を務めている船見です。
現在、2年に1度の診療報酬・調剤報酬改定に向けて、中央社会保険医療協議会(中医協)で議論が進められています。 その議論の過程おいては、大手薬局チェーンの利益率の高さや、門前薬局による処方箋の付け替えによる不正請求などが次々と指摘され、調剤薬局への風当たりは非常に厳しいものと言わざるをえない状況です。その批判の矛先は、調剤薬局の経営者や不正請求に関与した薬剤師に対してだけでなく、薬局薬剤師にも向けられています。
この記事の目次
1.成長してきた薬局事業とその裏に
“医薬分業”という大義名分の下、この20年ほどで大きな成長を続けてきた調剤薬局事業ですが、その成長に伴い、薬局薬剤師の仕事の質には厳しい目が向けられるようになってきました。薬剤師の皆さんは十分ご承知かと思いますが、薬局薬剤師は、薬品棚から処方箋通りに医薬品を取って薬袋に入れてお渡しする、という作業形態から「ピッキングマシーン」「袋詰め」と揶揄されることもしばしばです。
また、この10年ほどの急速なインターネットの普及と医療系コンテンツの充実により、医学的・薬学的知識の有無に関わらず、誰もが簡単に治療薬についての情報が簡単に入手できるようになり、薬剤師による服薬指導の重みも十分に理解されないようになりつつあるようにも感じます。(勉強が足りていない薬剤師や、旧態依然とした薬剤師が散見される、という点は否定できませんし、自分自身のことを考えても、まだまだ知識不足・経験不足と感じることもありますので大きな声では言えませんが……。)
これらの背景があるためか、薬局薬剤師業務は、「誰にでもできる仕事」と言われ、「将来、ロボットやAI(人工知能)に取って代わられる仕事」と指摘されることさえあります。
2.「誰にでもできる仕事」
世間で言われている通り、処方箋に書かれた医薬品をその数量(日数)分ピックアップする、ということは確かに「誰にでもできる仕事」と言えるでしょう。また、それを薬剤名が書かれた薬袋に入れる作業も誰にでもできる仕事だと思います。
更に、処方内容(薬剤名、用法・用量、処方日数など)が妥当であるかどうかを確認することも、添付文書などを見れば、誰にでもできる、と言うことができるかもしれません。
「いやいや、患者さんごとの併用薬や合併症、副作用の確認も薬剤師の重要な仕事ですよ」という声もあるかもしれませんが、上で述べたように、インターネットで検索をすれば、添付文書や服薬指導箋、治療ガイドラインなど(その気になれば英語の論文さえも!)の情報を簡単に入手できる現在、「薬剤師だけができる仕事」と言い切ることは難しいのかもしれません。
こうして1つ1つを見ると、「薬剤師の仕事は“誰にでもできる仕事”である」という批判は当たらずとも遠からず……なのかもしれません。
3.薬剤師として胸を張れる日は来ないのか?
また、こんな声も聞こえます。
「(医者と同じく)6年間も勉強して、結局は医者の処方通りに患者さんに薬を渡すだけなのか?」
そしてそうした声は、残念ながら薬剤師から発せられることも少なくありません。
「せっかく6年間、大学でいろいろと勉強してきたのに、結局は処方箋通りに薬を棚から取り出して渡すだけの仕事しかできない…」
では、薬剤師の仕事は「誰にでもできる仕事」ばかりだったとして、これから薬剤師は、肩身の狭い思いをしながら仕事を続けなければいけないのでしょうか。薬剤師として評価される日は来ないのでしょうか。
4.「誰にでもできること」の積み重ねが大切
話は少しそれますが、米・メジャーリーグで活躍するイチロー選手は、誰もが認める偉大な選手です。バッティングにおいて日米通算4,300安打という大偉業を成し遂げただけでなく、守備や走塁においても、記憶にも記録にも残る活躍をしてこられました。
その偉大さは、1試合での活躍だけでなくデビューから20年以上もずっと第一線で活躍してきていることだ、と言えるでしょう。
そのイチロー選手の言葉に次のようなものがあります。
「首位打者のタイトルは気にしない。順位なんて相手次第で左右されるものだから。自分にとって大切なのは自分。だから1本1本重ねていくヒットの本数を、自分は大切にしている」
考えてみると、ヒット1本1本は、大切なタイムリーヒットにでもならない限り、プロ野球選手として大きな評価には繋がりにくいと言えるでしょう。ましてや、自分よりも、多くのヒットを打つ選手がいれば、その選手の方が注目されてしまうことは致し方ないところです。しかし、そうした周りの評価に関わらず、「バッターボックスに立つ」ということは「ヒットを打つことを目標にその打席に臨む」という気構えが野球選手として大切だ、ということをイチロー選手は述べているのではないか――。そんな風に感じられる言葉です。
では、僕たち薬剤師はどんな気構えで、薬局、調剤室、そして患者さんの前で仕事に臨むべきなのでしょうか。
5.患者さんの笑顔につながる仕事にするために
イチロー選手にとっての「1回の打席」は、僕たち薬剤師にとっては「1枚の処方箋」です。患者さんが、病気や治療に対して抱いている疑問や不安を和らげ、より良い治療につなげることが、僕たちにとっての「ヒット」です。
それを実現するために日々、処方鑑査を行い、相互作用をチェックし、処方箋通りに調剤を行い、患者さんに説明を行い、薬歴に記録していく――それが僕たち薬局薬剤師が行っている業務なのではないでしょうか。
4千本以上のヒットを打ってきたイチロー選手の偉大な記録も、1本1本のヒットの積み重ねです。イチロー選手を引き合いに出すのはおこがましいことですが、「誰にでもできること」を積み重ねることは、そう容易いことではないはずです。
例え「誰にでもできること」と周囲から思われていたとしても、その評価にとらわれず、患者さんのために、実直に1枚の処方箋と向き合っていくこと――そんな気構えが、いつかきっと患者さんの“笑顔”という大きな結果への1歩へと繋がるのだと思います。
そしてその1歩1歩の積み重ねこそが、“薬剤師にしかできない仕事”になるのではないでしょうか。
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