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こんにちは!栃木県宇都宮市の保険薬局で管理薬剤師を務めている船見です。
今冬のインフルエンザシーズンでは、2018年に発売されたインフルエンザ治療薬ゾフルーザ(バロキサビル マルボキシル)の耐性化が話題となりました。
今回のコラムではゾフルーザの体制化に関連して抗生物質と耐性菌について解説をしていきます。
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インフルエンザ治療薬ゾフルーザの耐性化
今冬のインフルエンザシーズンでは、2018年に発売されたインフルエンザ治療薬ゾフルーザ(バロキサビル マルボキシル)の耐性化が話題となりました。
ゾフルーザは、1回の服用だけで治療が終わるため、何度も吸入を繰り返さなければならないイナビル(ラニナミビル オクタン酸エステル水和物)や、5日間内服を続けなければならないタミフル(オセルタミビル)に比べて、患者さんや医療者の服薬指導の負担軽減につながることが期待され、シーズン途中で出荷調整がかけられるほど、処方が増加しました。
その一方で、臨床試験の段階から懸念されてきたゾフルーザへの感受性の低下、いわゆる耐性化の発現が確認され、こちらもマスコミに取り上げられ話題となりました。
ゾフルーザの感受性低下ウイルスに関しては、現時点で、感染伝播拡大が確認されていません。しかし、万が一、ゾフルーザへの感受性が低下した状態、つまりゾフルーザ耐性化を獲得した状態で感染が拡大していくと、ゾフルーザの使用が困難な状態になってしまうことが懸念されています。
こうしたウイルスの薬剤耐性化とは発現の仕組みや状況がまったく異なりますが、実際に薬剤耐性の問題に直面しているのが、細菌の薬剤耐性化(antimicrobial resistance ; AMR)です。
AMRの現状とWHOの取り組み
近年、抗菌薬が効かない薬剤耐性(AMR)をもつ細菌が世界中で増加しており、何も対策を講じない場合、2050年には世界で1000万人の死亡し、がんによる死亡者数を超える、と想定されています。薬剤耐性菌が増えることにより、感染症に対する治療が困難になり、重症化や死亡にいたる可能性が高まってしまうとの懸念があるのです。また、新しく開発される抗菌薬の数は年々減少しており、薬剤耐性菌による感染症の治療はますます難しくなってきています。
AMRが拡大している原因の1つとして、抗菌薬の不適切な使用が挙げられます。特に日本においては、経口のセファロスポリン系薬、フルオロキノロン系薬、マクロライド系薬が不適切に処方されており、その耐性化が進んでいると考えられています。
こうした状況を踏まえ世界保健機関(WHO)は2015年、「薬剤耐性に関するグローバル・アクション・プラン」を採択し、加盟国は2年以内に自国の行動計画を策定し、行動することを要請しました。それを受けて、日本は2016年に「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2016-2020)」1) を策定しました。
日本におけるAMR対策について
「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2016-2020)」では、(1)普及啓発・教育、(2)動向調査・監視、(3)感染予防・管理、(4)抗微生物剤の適正使用、(5)研究開発・創薬、(6)国際協力の6分野で目標が定められています。
加えて、(1)人口千人あたりの抗菌薬の1日使用量を33%削減すること、(2)経口セファロスポリン系抗菌薬・フルオロキノロン系抗菌薬・マクロライド系抗菌薬の人口千人あたりの1日使用量を50%削減すること、(3)人口千人あたりの静注抗菌薬の1日使用量を20%削減すること、という成果指標が掲げられています。
また、対策の一環として、2017年に外来診療の現場で活用できる「抗微生物薬適正使用の手引き」 2) が発行されています。
抗菌薬処方に対して薬局の薬剤師ができること
「薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書 2018」 3) によれば、約4割の国民が、「かぜやインフルエンザに対して抗生物質が有効である」と考えており、医師の半数以上が、「かぜの患者に、患者の求めに応じて抗菌薬を処方することがある」と回答しています。
病院やクリニックでの診察が終わり、処方箋が発行された後で、薬局の薬剤師がその抗菌薬の処方に対して異議を唱えることは非常に難しいことと言わざるを得ません。
そうした状況を踏まえて、今、薬局の薬剤師ができることは、まず耐性菌発現のリスクとなる、自己判断での服用中断や服薬回数の調節をやめてもらうこと、つまり、処方日数や用法・用量の設定の意味について、患者さんに正しく理解していただけるようお伝えをすることだと思います。
また、薬剤師自身が、上述の「抗微生物薬適正使用の手引き」などの内容を熟知した上で、抗菌薬処方について正しい知識を持ち、患者さんへの啓蒙活動を行うことも重要です。AMR対策のポスターやパンフレットなどのツール 4) を使い、患者さんに「かぜの治療に抗菌薬は不要であること」「不要な抗菌薬処方が耐性菌を生み、感染症治療に悪影響が出ること」といった説明することや、感染症予防のための手洗い、ワクチン接種、咳エチケット、うがいなどの重要性について繰り返し案内していくなどの活動から患者さんの意識に働きかけていくことが大切になるでしょう。
2020年に、薬局の薬剤師が「AMR対策アクションプランの達成に貢献できた!」と胸を張ることができるよう取り組んでいきたいです。
参考文献・記事
1)厚生労働省「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2016-2020)」
2)厚生労働省「抗微生物薬適正使用の手引き 第一版」
3)厚生労働省「薬剤耐性ワンヘルス動向調査年次報告書 2018」
4) AMR臨床リファレンスセンター「啓発用ツール・ポスターなど」
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