HOP!薬剤師

地域医療に貢献する薬剤師を養成するために。大分大学の取り組みとは

薬剤師の育成・教育・専門性向上の支援を通じて、地域医療への貢献を目指す大分大学医学部附属病院薬剤部。

具体的な取り組みについて、薬剤部長の伊東さんに詳しいお話を伺いました。

伊東 弘樹(いとう ひろき)さん

  • 1996年熊本大学薬学部卒業、医療法人萬生会熊本第一病院を経て、1997年大分医科大学医学部附属病院薬剤部入局。
    2003年大分大学医学部附属病院副薬剤部長、2014年大分大学医学部附属病院薬剤部教授、医学科薬剤学講座教授、附属病院薬剤部長に就任、2017年から副病院長を兼任。
  • 現在は、大分大学医学部教授、副病院長、薬剤部長、総合臨床研究センター副センター長、クオリティマネジメント室未承認新規医薬品等管理部門長。
    学外業務として、大分県病院薬剤師会副会長、九州山口薬学会副会頭、大分県立看護大学非常勤講師として、診療・教育・研究に従事。

※当サイトは口コミの一部を掲載しています。

1.特定機能病院として地域医療に貢献する

―大分大学医学部附属病院薬剤部の取り組みをお聞かせください

本院は大分県唯一の大学病院であり、全国に87ある特定機能病院の一つです。その特性から、高度で先進的な医療の提供と地域医療に貢献する医療人の育成を担っています。

一般病棟(594床)に加え高度救命救急センター(24床)を併設し、多数の疾患の治療を行うため、2,000品目を超える医薬品を取り扱っています。そのため、当院の薬剤師は、それらすべての薬に精通することが求められています。また、大学病院ということで、薬剤師は「臨床業務」だけでなく、「教育」や「研究」にも関わっています。病院職員や薬学生だけでなく、医学生や看護学生の教育も担当する点が特徴的なポイントですね。

常に臨床での問題点を把握して研究につなげ、その結果を臨床にフィードバックすることを目標に、薬剤師には「臨床業務・教育・研究」において、バランスよく活躍することを求めています。原点は、患者さんへ最適な薬物治療を提供することです。

また大分県民の特性かもしれませんが、患者さんは、住み慣れた自宅近くの病院での治療を望むことが多いです。しかし、抗がん剤治療などの実績の少ない病院で入院・治療している場合も少なくありません。そのため当院から薬剤師を派遣し、抗がん剤レジメンや副作用対策チェックリストなどを提供し、活用してもらっていることも大きな特徴といえるでしょう。

2.薬剤師の成長に向けて実施している取り組み

―近年、薬剤師の専門性が求められていますが、どのような取り組みで対応していますか?

まずは、あらゆる場面で総合的に判断・活動できるジェネラリストを、3年かけて育成しています。その経験のなかで、がん領域、感染領域、糖尿病領域や救急領域など各自が興味を持った領域の専門薬剤師の認定取得に挑戦してもらっています。

専門領域の選択に関しては、年2回の職員面談で各領域への興味や今後のキャリアパスを確認し、可能な限り本人の希望に沿うよう配属部署を決める方法です。また、専門薬剤師や薬学博士を取得した経験豊富な薬剤師が新人指導を担当し、本人が成長するための目標設定をサポートしています。最近は、明確な目標をもっていない学生・薬剤師も多いため、面談をしながら本人のキャリアパスを考えています。

今後は、薬剤業務の一部をAIが担う可能性が大きいなかで、薬剤師としての自身のキャリアをしっかり考える必要があるでしょう。

―専門性向上のほか、入職して1〜2年目の薬剤師の育成・教育についてどのような体制をとっているのですか?

本院では、卒後少しでも早くから臨床現場での経験を積んでもらうため、入職4ヶ月で当直業務を開始しています。また、薬剤部の基本業務をしっかり指導した後、6ヶ月目から抗がん剤調製やレジメンチェック業務を、10ケ月目から病棟業務にも関わっていきます。

初めは、先輩に付き添って患者さんとコミュニケーションをとることから開始し、医師とのカンファレンスに参加することで、薬物療法の基礎を学んでいきます。また、カンファレンスでは積極的に発言することで、自分をアピールする(認識してもらう)ことも重要です。

さらに担当病棟の指導薬剤師は、新人に研究(調査)テーマを与え、患者データの収集・解析を一緒に行なうことで、学会発表などにもつなげていきます。これらの経験を通じて、チーム医療で活躍できる考察力や提案力が磨かれるはずです。

現在、医療機関では、多職種チームによる医療提供が求められています。与えられた業務をこなすだけでなく「目の前にある患者さんの問題点を把握し、どう解釈するか」を常に思考できないと、医療チーム内では取り残されてしまうでしょう。

そのためにも、勉強は当然ですが、さまざまな業務に関わることが重要だと考えています。

3.今後の働き方と、薬剤部の教育方針

―現在の薬剤師に不足しているものは何でしょうか?

薬剤師は非常にまじめな人が多いのですが、コミュニケーション力が足りない印象があります。

チーム医療においては、知識が必要なのは当然ですが、その前提にあるのはコミュニケーション力です。だからこそ、学生のうちにいろいろな方と交流をもち、会話・プレゼンテーション・討論のコツを学習しておいて欲しいですね。

また現在、厚生労働省では、「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」が行われています。検討会では、臨床経験の足りない薬剤師が多いことが問題となっています。今後、実務実習制度や卒後の生涯学習のあり方も大きく変わっていくでしょう。

その点大学病院は、医学・看護教育も同時に行っているため、一般病院とは違う環境にあります。臨床現場においても、医学生・看護学生との接点も多く、薬学教育との違いを学ぶことも多いでしょう。さらに、大分県民最後の砦の病院であるからこそ、重篤な疾患も多く、患者さんの生死に直接かかわる現場でもあります。そのため、薬剤師として成長するには適した環境でしょう。

―今後どの様な薬剤師を輩出していきたいですか?

医師は、プライマリケアを実践する総合医であるとともに、自分の専門領域を必ず持っています。今後、薬剤師も今以上に専門性が求められてきます。どのようなニーズにもしっかり対応でき、臨床業務・教育・研究の3つの求められる機能をバランスよく実践できる薬剤師を育成していきたいですね。

厳しい中にも、楽しさのある職場を目指しています。

―最後に、この記事を読む薬剤師にメッセージをお願いします

薬剤師を職業と選んだ皆さん方は、幸せです。私たちは、患者さんの笑顔を見ることができます。

そのためには、常に最新の医学・薬学情報を入手し、勉強していく必要があります。また、社会のニーズをキャッチすることも重要です。そういう中で、個人のライフステージに応じた将来のキャリアパスをしっかり描いてほしいと思います。目の前にいる患者さんのために。そして、将来臨床現場に来る薬学生のためにも。

大分大学医学部附属病院薬剤部の公式HPはこちら

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