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金沢大学附属病院薬剤部の人材育成モデル「KUPS」が掲げる未来のリーダー像

臨床教育を通じ、幅広い視野の獲得と専門性向上を推進する金沢大学附属病院薬剤部。
今回は薬剤部の人材育成モデル「Kanazawa University Pharmacist Standard(KUPS)」について、詳しいお話を薬剤部長の崔吉道さんに伺いました。

崔 吉道(さい よしみち)さん

  • 1989年 金沢大学薬学部卒、1994年 金沢大学大学院修了、博士(薬学)、同年 金沢大学薬学部助手、その後、米国Tufts大学医学部留学、慶應義塾大学准教授などを経て2014年 金沢大学教授・副病院長・薬剤部長に就任。
  • 現在は金沢大学教授・病院長補佐・薬剤部長・AIホスピタル/マクロシグナルダイナミクス研究開発センター長、日本病院薬剤師会理事、日本薬剤師会理事、日本薬剤学会理事、日本医療薬学会理等として、診療・教育・研究に従事。

1.医療の持続可能性を支える人材育成を目指して

ーまず、Kanazawa University Pharmacist Standard(以下、KUPS)を設立した背景と目的をお聞かせください。

背景としては、私自身が臨床の現場でさまざまな課題に直面したことですね。
高齢化が進むなかで、医療が追いついていない現状や医療費の膨らみなど、知れば知るほど「今何かをしなければ医療そのものの存続が危うい」と感じ、また同時に医療に対する薬剤師の関わり方、さらには医療の持続可能性に危機を感じたのです。

そんな状況のなかで、診療に加えて教育・研究も担う大学病院だからこそ、未来を切り開くリーダーの育成が重要だと考え始めました。 そこで、目指すべきリーダー像を定義するべく発足したのがV(ビジョンリーダー)チームです。

医療が変わりゆくなかで、本院の薬剤部は高度急性期から一般急性期を担うプロ集団であるべきですし、また教育面では、卒後研修の仕組み自体を構築し、回復期、慢性期の医療における調剤と医薬品の供給に加えてその他薬事衛生を含む地域包括ケアシステム全体を俯瞰的に捉えることができる人材が必要となります。
また研究についてもリバーストランスレーショナルリサーチを推進する集団でありたいと考えました。

これらをビジョンとしてまとめ、そのうえで具体的に人材育成を推進するにあたって「金沢大学の薬剤師のスタンダード」を定めることになったのです。
今までにない医療体制を作るための人材育成を目指し、金沢大学の薬剤師があるべき姿の基準として「KUPS」を策定しました。

2.研究・教育の連続性を重視したプログラム

ー本プログラムの概要を教えてください

本プログラムでは、多職種との連携で行われる診療、教育、そして研究と幅広い領域で高いレベルでバランスがとれて優れた人材の育成を試みています。

まず薬剤師のレベルを1~10段階に区分し、レベル5を金沢大学附属病院の薬剤師のスタンダードと定めました。
卒業直後は大体レベル2~3程度に位置づけられますので、5年間かけてレベル5、つまり当院の薬剤師のスタンダードに到達することがプログラムの基本です。

薬剤師の臨床教育において卒前卒後の研究・教育の連続性は重要なポイントととらえ、今後の薬学教育のカリキュラム改定も想定したキャリアアップシステムの整備に努めました。
スタンダードを超えたレベル7は主任クラス、9は副薬剤部長、そして10はおおよそ日本最先端の薬剤師のレベルと定義しています。

ー策定に至るまでどのような議論がありましたか

当院が定める基準ですから、当然自分たちで決める必要があります。そして作成するからには自他ともに認めるブランドにしたいですし、そうでなければなりません。
そのために薬剤部に所属する専門性の高い薬剤師はもちろん、大学院生や学位を取ったばかりの若い世代などに参加してもらい、とことん議論しました。

また、Vチームを新たな組織と位置付けたのが大きなポイントですね。通常、部内の業務についての議論は主任会議でおこないますが、将来ビジョンについては博士号取得者を中心に若手を含めた色んな専門領域を持ったメンバーでVチームを構成することで、大学院生や未来を担う若い人材の意見を集められました。

3.限られた時間を最大限活用するために

ー研修制度について詳しく教えてください

研修は初期研修・後期研修に分かれます。
卒業後1~2年は、セントラル業務に加えて1年目の6月頃から病棟で実務経験を積みます。秋には夜勤が担当できるよう、基本的な調剤業務と病棟等での臨床能力を養います。

まず、本プログラムの軸である「幅広い領域でバランスが取れて優れた人材」を目指し、複数の病棟をローテーションしてバランスよく臨床能力を身に着けてもらいます。半年ごとに診療科をまわり、さまざまな薬物療法を網羅的に学んでいきます。
そして最初の2年間でベースを形成したのち、3~5年目で希望の専門分野を決めます。3年目からは主担当として病棟に配属され、そこから3年かけて専門薬剤師・認定薬剤師を目指します。

さらに研究を重ねたい職員は途中で大学院に入る場合もありますよ。加えて、地域全体の医療体制を俯瞰できる薬剤師を育てたいので、中小病院や薬局の研修も推奨しています。
見学だけでなく回復期や在宅期にあたる患者さんを対象とした医療に直接かかわることは貴重な経験になるでしょう。

ー指導体制はどのような体制になっているのでしょうか

実務のみならず、自己管理の方法やほかの医療関係者とどう関係を作っていくか等、色んな領域に関してルーブリック(評価基準)を作っています。 評価はおよそ半年ごとに、ルーブリックに従って、自己評価とVチームのメンバーによる評価の両面で行います。

さらに様々な疾患領域の症例サマリの作成数やTDMの経験数といった実績も評価シートに記載します。 これらの情報をVチームのMTGで揉み、それぞれに適した今後の教育体制や方向性などを話し合うのです。

ー全員が同じプログラムではないんですね

そうですね。最初の2年間は全員が基本的な領域を幅広く経験しますが、後半の3年間は個人の専門性を重視します。
自分のなかでコアになる専門性があると、自分がこれまで歩んできたものを軸に横展開できるからです。 5年間満遍なく学ぶのではなく、途中から自分の専門性を確立してもらうのが重要だと考えています。

評価についても同様です。そもそも入職時のレベルが新卒と中途採用では大きく異なりますし、同じ新卒でも当然個人差があります。だからこそチェックシートで自分の得手不得手を明らかにし、足りないところを埋めるために時間を費やします。 上司からの評価も振り落とすためではなく、限られた時間でどこに焦点を当てるか決めるのが目的です。

スタンダード(レベル5)に到達していないポイントを中心に進めるので道筋は皆バラバラですが、最終的にはすべての領域でスタンダードに達するようになっています。

4.幅広い視野と軸となる専門性を養ってほしい

ー最後に、薬剤部のビジョンについてお聞かせください

直近の2025年に向けて、Vチームで定義した薬剤部のビジョンは以下の通りです。

Vision(2025年の薬剖部の姿)

  • 医療資源の再分配が完了後の高度急性期および一般急性期を担うプロ集団である
  • 新たな医療体制を先導する人材の宝庫であり、そのような人材となることを志す者に開かれた成長の場である
  • 臨床から基礎へ、基礎から臨床へ、課題解決の懸け橋となるリバーストランスレーショナル研究を推進するPharmacist-Scientist集団である

これから仕事を続けていくなかで、さまざまなライフステージを迎え、働き方が変わるシーンもあるかもしれません。 そんな時のために、将来のキャリアパスをしっかり描いてほしいと思っています。
だからこそ大学病院など一部の現場だけでなく、医療の全体像を包括的・俯瞰的に見られるような視点を身に着ける必要があるのです。

次の医療体制を担う人材においては、幅広い視野と柱になる専門性を養っていくことが一層重要なのではないでしょうか。

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