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薬剤師が最新ニュースに物申す!5分で読める2019年8月前半のニュース

薬剤師の目線から話題となったニュースを取り上げ、解説していく恒例のコーナーですが、今回は8月前半に起きた薬剤師関連のニュースについて3点取り上げてみました。

どの記事も、医療業界で働いている人にはぜひ目を通しておきたい内容となっていますので、ぜひ元記事と合わせて読んでみて下さい!

※当サイトは口コミの一部を掲載しています。

あの名医にスマホで相談 健康管理や不安解消に道

ニュース概要

オンライン診療が保険制度上の縛りでなかなか広がらない中で、スマートフォンで気軽に医師に相談できる「ネット医療相談」というサービスが広がってきています。

医療スタートアップのMICINが5月に始めたサービスでは、遺伝性のがんについて専門医に相談することができます。また、通話大手LINEは臨床医の9割を会員にもつエムスリーと共同で同じように医師相談サービスを始める予定です。

今後こうしたネット経由の医療関連サービスは拡大していく見通しで、2025年には250億円規模になるとみられています。オンライン相談のニーズはがんだけでなく幅広い病気にありますので、今後は相談に対応できる疾患を増やしていくことが期待されます。

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日経新聞 2019/8/11

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オンライン診療については過去何度か取り上げている話題ですが、日本ではまだ広く普及されてはいないのが現状です。

しかし、2018年度の診療報酬改定でオンライン診療に関する診療報酬が改定されて以降、様々な企業が新規参入しています。今後拡大が見込める市場で、どの企業が主導権を握っていくのかも注目されるところです。

今回は、診療ではなくネットでの「医療相談」にスポットが当てられています。確かに、利用者の目線で考えると、病気にかかったり、かかるのではないかと不安に感じている中で、その分野の専門医からアドバイスをもらえるというのは非常に心強いものだと思います。

問題点は、金額面と、医師への負担があるということでしょうか。

MICINが始めたサービスでは30分で3,500円とあります。まだ新しい分野ですのでこの金額が適正なのか判断に難しいところですが、時間制ですので「長く話を聞いて欲しい」という人には不満に思う点もあるかもしれません。

個人的には、専門医から直接話を聞くことができるのであればこの金額は安く、サービスとしての価値を考えるともう少し高くてもいいような気もします。

ただ、病院の診察が保険制度により3割負担になっていて、あまり負担をせずに利用できていることを考えると、診察をせずにアドバイスをもらうだけでこれ以上高い金額にしても利用者がいなくなってしまうのでは、とも思います。

また、医師への負担も気になるところです。

病院と共同で行っているサービスですので本業に支障がでないように組まれているのでしょうが、普段の業務だけでも日々忙しくされている医師の方々ですので、業務が増えるということで負担になってしまうケースもあるのではと思います。

状況は異なりますが、私は調剤薬局で勤務する中でかかりつけ薬剤師を案内しています。

かかりつけ薬剤師に同意していただいた患者さんに対しては、夜間も含めた24時間対応をする必要がありますので、夜間や休日にも連絡が入り、相談を受けることがあります。

頻度はごく稀にですが、それでも負担に感じ、気持ちが休まらないと感じるときもあります。これが「毎日これだけの患者さんの相談に対応して」ということになれば、その負担は更に増えることが予想されます。

サービス自体は非常に良いものであると思いますので、双方に負担のかからない形で広がっていってくれればと思います。

また、記事後半にあるLINEとエムスリーの共同事業のサービスにも注目したいと思います。

通話アプリ大手と医療サービス大手の両者が組むことでどれほどの影響力があるのか。LINEを上手く使うことで、こういったオンライン診療、オンライン医療相談などがより身近になります。そうすれば、一気に普及していく可能性も十分にあるのではと思います。

医療費の無駄を減らせ 「薬価差益」削減の秘策

ニュース概要

日本では、医師によって処方される薬が異なり、価格の高いブランド医薬品が使われたり、ガイドラインに沿わない処方がされることがあります。

その原因の1つが薬価差益で、医療機関は医薬品代を公定価格で請求して、割引価格で納入するため、その差額が医療機関の収益になるのです。

かつては3~40%引きも珍しくありませんでしたが、現在は10%程度の値引きとなっていて、医薬分業も進んだため薬価差益の問題は減っています。しかし、未だに3割の医療機関が院内処方を採用しています。

薬価差益を減らす方法として、「フォーミュラリー」という指針が注目されています。

効果や安全性だけでなく、コストパフォーマンスも含めて考えられた使用指針で、ジェネリック医薬品への移行や、高額医薬品からの切り替えなどで薬剤費を抑える効果が期待されています。

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日経新聞 2019/8/6

コメント

医療費削減に関する記事も、このコーナーではよく取り上げています。今回は、病院での薬価差益問題について書かれています。調剤薬局の薬価差益とはまた違った考えがありましたので、非常に勉強になりました。

院内処方をしている病院にとって、薬価差益は大きな収入源です。以前は30~40%ほどの差益が取れていたものが今では10%前後になり、昔ほど利益を上げることは難しくなりましたが、それでも大きな病院であればかなりの金額になります。

以前、病院の事務長をされている方と話をする機会があり、この薬価差益についても話を聞いたことがあります。

それなりの規模の病院となると薬価差益だけでも数千万~数億円の利益となりますので、どれだけ安く仕入れることができるか、毎年様々な卸から見積もりを取って決めているとのことでした。

当然、薬価差益を取るために多くの薬はジェネリックではなく先発品を採用していました。この傾向は個人経営の病院であるほど顕著になります。

国の医療費全体で考えると、当然削減しなければならない部分ではありますが、ただ経営者の立場からすると、簡単に利益を出すことができる薬価差益に頼ってしまうのは仕方のないことなのかとも思います。

ジェネリック医薬品の使用率もここ数年で飛躍的に上昇しましたが、数量ベースでは70%を超えていても金額ベースでは14%にしか満たないとのこと。

薬局で処方される薬は大半がジェネリックで処方されるようになりましたが、病院内で出される高額な医薬品に関しては、まだジェネリックに切り替わっていないものが大半を占めているのではないかと推察されます。

この問題の解決には、制度自体を変えていかなければ根本的な解決にならないと思っています。記事内では「フォーミュラリー」という薬の使用指針が解決策として紹介されています。

例に挙げられている降圧剤を見てみると、確かに指針に則ってARBからCa拮抗薬に切り換え、ジェネリックに切り換えることができれば医療費は削減できます。

しかし、基幹病院ではよくても地域の診療所では医師とメーカーとの関係性などもあり、そう簡単に変えれるものではありません。特にARBは各メーカーが特に力を入れている分野ですので、メーカーとの関係性を重視している医師にとっては難しいでしょう。

このフォーミュラリーを全ての医療機関に広げていくのは非常に時間のかかることだと思います。ジェネリック医薬品を使うことで薬価差益なみのメリットが得られる状況を作らなければ、病院のジェネリック医薬品への切り替えは進まないのではと思います。

医療費の削減は国の至上命題です。ただ、近年の診療報酬改定での後発比率の引き上げなどを見ていると、変化のスピードが早すぎると感じます。

変化を急ぎすぎると、医療の質の低下につながったり、調剤薬局の中には変化に対応しきれずに閉局してしまうところも増えるのではと感じています。医療費は削減しつつも、医療機関としては利益を確保できる手段を残しておいて欲しいと思います。

中国の医療市場とは 1人あたり医療費、15年で10倍

ニュース概要

中国では経済成長に伴い健康寿命が延びていて、医療費も年々増加しています。国民1人あたりの医療費は15年間で10倍近くになりました。

その要因の1つが医療ニーズの変化で、経済成長が進むにつれ先進国と同じように高血圧や糖尿病、がんなどの疾患が増え、高額な薬剤費が医療費の増加につながっています。

中国では流通する8割がジェネリック医薬品となっています。品質データの提出を義務付け粗悪品を排除したり、新薬承認の規制緩和を進めることで、市場の活性化、医療水準の向上につなげています。

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日経新聞 2019/8/1

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中国の医薬品市場は年々拡大していて、現在は日本を抜いて世界第二位の市場規模となっています。

今後も経済成長と医療保険制度の整備、そして高齢化が進むことによって、医療費は更に伸び続けると予想されています。

中国を見ていると、日本では考えられない政策をとって医薬品市場を活性化させようという姿勢が見て取れます。その1つが、販売承認に関する規制の緩和です。

2017年10月に臨床試験の新たな制度が始まり、国際的な試験データをそのまま利用できるようになりました。また、16年には販売許可の審査機関が短くなる制度も始まっていて、トータルでは販売までの時間を3年近く短縮できることになります。

日本では、承認までに時間がかかってしまい、欧米ですでに使用されている薬がなかなか使えない、「ドラッグラグ」という問題がたびたび取り上げられます。

確かに安全性の見極めなどは大事なことですが、それだけにとらわれてしまうと世界から取り残されてしまうことになります。

その点、中国は積極的に規制緩和を行うことで外資企業を呼び込んでいます。日本の武田製薬やアステラスなど大手企業も、中国市場の開拓に力を入れ始めています。

今までは画期的な新薬が出るとまず欧米で承認されるということがほとんどでしたが、今後は中国で最初に承認されるというケースも増えてくるのではないかと思っています。

日本の医薬品市場の成長率は、2014~18年の5年間で平均1%、19年~23年までの5年間ではマイナス成長となることが予想されていて、世界全体の3~6%成長と比較しても非常に低い水準となっています。

中国のように市場を活性化させるための積極的な施策が必要なのではないかと感じます。

まとめ

今回は、

  • ネット医療相談の今後について
  • 薬価差益問題を解決するには
  • 成長を続ける中国医薬品市場と日本との比較

について解説を行ってきました。

医療費の削減問題に関しては、様々な角度から記事を取り上げていますが、正直なところどの解決策もあまり効果を発揮していないのが現状だと思います。

いち国民としては医療費の削減には賛成ですが、医療人としては、だからといって医療費を減らす=薬局の利益を減らす、という方向にはなってほしくないと思います。

このコーナーでの連載を通して、薬剤師としてのあり方も一緒に考えていけたらと思っています。

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