すべてのビジネスパーソンが「エンプロイアビリティ」を身につけるべき本当の理由

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エンプロイアビリティという「雇用される力」、「市場価値」を意味する言葉が注目されています。

納得のいく転職活動のために、そして自分の力で仕事を獲得していくために、ビジネスパーソンがキャリアを考える上で欠かせないこの力は、一体どのようなものなのでしょうか

エンプロイアビリティの重要性を早くから指摘し、時代と個人に沿うあり方を提唱してきた佐々木直彦氏に聞いてみました。

※当サイトは口コミの一部を掲載しています。

不安とリスクの時代に考える|「エンプロイアビリティ」とは何か

――佐々木さんは著書『キャリアの教科書』でエンプロイアビリティを「雇われる力であり、いざというときは自分で自分を雇う力」だと書かれています。
そもそもエンプロイアビリティとはどのような能力としてとらえられていますか?

基本として専門能力・自己表現力・情報力・適応力という4つの能力に分けて紹介しています。

「専門能力」は、自分が何をもとに仕事をするかという基本となる力。「自己表現能力」は、自分をプレゼンテーションする力。「情報力」は、自分の能力がどれだけ評価されるのかを知る力。「適応力」は、環境への順応力、柔軟に自分を変化させる力を意味します。

現代のビジネス環境を背景に説明してみましょうか。
現代は自分の働く会社が突然経営破綻したり、合併や買収でまったく異なる会社になってしまったり、また、リストラにあったりするかもしれない時代です。

『キャリアの教科書』は2003年の著作ですが、当時も今も「エンプロイアビリティ」はビジネスパーソンにとって必須の能力でしょう。

注意が必要なのは、「雇われる能力」としてのみエンプロイアビリティを捉えると「雇われる側」の視点でしか考えられなくなってしまうということです。
エンプロイアビリティの究極は「自分で自分を雇う力」でもあるのですから。

――エンプロイアビリティは雇用の不安、転職の有利不利といった面からだけではなく、キャリア形成というロングレンジから見るべき、ということでしょうか。

そうですね。エンプロイアビリティを強化することは、転職の時に役立つだけではなく、いざとなったら、自分の仕事は自分で何とかすることに繋がります。これが一番強いわけです。

誰かに価値を与える、満足のいく仕事をする。そのためにエンプロイアビリティがあるとしたら、その能力を会社という枠に限定する必要はありません。

近年、大企業に籍を置いていても、ここにしがみついていたらまずいという危機感を持つ若い人が増えています。

かつて、新卒者の離職率の高さが話題になりましたが、今は入社5年目(30歳前後)で現在の仕事のフィールドで自分の能力が高まらないのではないかと疑問を持ち、キャリアチェンジを模索する動きが活発です。

「自分の仕事を自分で何とかする」ためにエンプロイアビリティを考える
そんなビジネスパーソンが増えてきているのです。

――大企業であっても決して安泰ではなくなり、雇用が流動化して働き方も多様になってきました。
エンプロイアビリティを考える意義も変わってきているのですね。

もちろん、原理原則としての基本は変わっていません。ただ、働く上で自分の能力を生かす選択肢を増やしていくだけではなく、社会とどうつながっていくか、社会にどんな価値が提供できるか
そんな視点が、いっそう求められるようになってきたのだと私は考えています。

今、ビジネスシーンで存在感を発揮するのは、自分から何かをしかけて提案できる、相手の立場に立って仮説を考えられる人材です。

そこではビジョナリーなプレゼンテーションが武器になります。ただスキルが高いだけの「雇われる力」ではなく、ビジョナリーな生き方とエンプロイアビリティが密接に関わるようになってきているのです。

人が共感してくれるか、人を巻き込めるか|リアルなビジョンを描き出すために

――今、求められるエンプロイアビリティのあり方が浮かび上がってきました。
ビジネスパーソンが自身のエンプロイアビリティを測るには、どうしたらいいのでしょうか。

エンプロイアビリティが「自分の市場価値」と意訳されることもあるように、市場価値測定のツール、サービスを利用するという手はあります。

しかし、私が推奨したいのは実際に動いて自分の価値をチェックしてみることです。
これは実際の転職活動でなくても構いません。今の社内のプロジェクト提案でもいい。

この人を幸せにしてみたい。こういう自分でありたい。自分の趣味を生かしたサービスを考えてみるというのもいいですね。

そして、その試みに、他の人がちゃんと共感してくれたり、プロジェクト・ムーブメントに加わってくれたりするかどうか。
これがエンプロイアビリティを検証する一つの手段になります。

――佐々木さんはエンプロイアビリティを高めるための方法として、実際に動き、実践してみることを提唱されていましたね。
具体的にはどのような動き方があるのでしょうか。

そうですね。3つのワークとして、「フィールドワーク」「コンセプトワーク」「ネットワーク」があります。

フィールドワークは現場で実践すること。コンセプトワークは本質を考えること。ネットワークは人とつながること。
これらのワークが専門力、自己表現力、情報力、適応力というエンプロイアビリティの基本になる4能力を高めてくれます。

どのワークから始めても大丈夫です。
しかし、どれか1つだけではなく、3つのワークを繰り返し、行ったり来たりしながら進めなければなりません

実践を通さなければ、熟考したことが正しいのかどうかがわかりません。実践したら、そこでは失敗も糧になります。

そして、人とつながっているからこそ、行動と思考が評価され、エンプロイアビリティが身についていくと言えるのです。

――SNSによってネットワークも強化され、よりつながりやすい時代になってきたような気がします。
今は比較的、3つのワークを実践しやすい社会かもしれませんね。

確かにSNSはネットワークの構築を簡単にしました。
興味のある分野のキーパーソンともつながりやすくなっています。

しかし、SNSを通して明らかになったのは、ビジョンを発信している人、発信していない人の「結びつきの強さ」はまったく違うということです。

ビジョンがなく、ただ自分がやりたいことだけを発信する人は、似ている人とだけ意気投合して終わり、次の創造にはつながりにくいのが現状ではないでしょうか。

一方、ビジョンを持って「誰かをハッピーにしたい、社会の役に立ちたい」と発信している人は、自分ならではの価値提供を明瞭に見せることが可能です。

そうなれば、そのサービスがほしい、そのビジョンに共鳴する、という人がつながりを求めてくるでしょう。

――自分らしいビジョンは、エンプロイアビリティだけではなく、何かを生み出すつながりに直結するということですね。
しかし、そのオリジナルなビジョンを描き出し、伝えていくことは容易なことではありません。

私が著書『プロデュース能力』でまとめたことですが、次の4つを語るとビジョンは魅力的に伝わります。

  1. ビジョンは何か?
    どんな未来を実現したいのか?(VISION)
  2. なぜそのビジョンなのか?(WHY)
  3. 誰をどうハッピーにするのか?(VALUE)
  4. どうやってそのビジョンを実現するのか?
    (STRATEGY)

この4つを深掘りし、まとめていくことでビジョンは明確なものになっていきます。
このSTRATEGYの部分をリアルに落とし込めば、ビジネスプランとして提案もできるでしょう。

前述したエンプロイアビリティ検証のように、人が共感してくれるか、参加してくれるかをトライアル・アンド・エラーすること。
これがエンプロイアビリティの強化になります。

――3つのワークを通して明確なビジョンを描き出し、誰かに価値を感じてもらえるかどうか。それがエンプロイアビリティの検証になるわけですね。

VISION 、WHY、VALUE、STRATEGYを通してビジョンを明確に描き出せるようになれば、人はしっかり聞いてくれる。
そして、応援してくれたり、一緒に考えたりしてくれるようにもなる。

エンプロイアビリティが「雇われる力」にとどまらず、「自分で自分を雇う力」につながることが見えてきましたね。

エンプロイアビリティを通して|仕事、キャリア、人生を考えていく

――これまでのお話から、エンプロイアビリティが主体的なキャリア設計、人生設計に不可欠な力であることがわかりました。
そう考えると、これは決して転職活動だけに求められるものではありませんね。

「雇われなきゃいけない」とだけ考えていては、エンプロイアビリティの本質が見えません
いい仕事をして自分の人生を切り拓く。また、その仕事によって誰かに価値を提供して貢献する。誰かを、社会をハッピーにする。

だから、さらなる仕事がやってくる――このサイクルを実直に回していくことです。それが転職という形であってもいいですし、社内提案からの事業化、あるいは独立、起業というかたちであってもいいでしょう。

――つまり「現在の会社にとどまる」という選択肢を持っていても、エンプロイアビリティは大きな力になる、と。

そうですね。価値を見出して形にする力もエンプロイアビリティを高めます。

社内で何の提案もチャレンジもせず、不満だけを持って次の職場を探すようではエンプロイアビリティが高いとは言えないでしょう。

いくら積極的な転職活動をしていても、そのような人にはまったくエンプロイアビリティが感じられません。

上司や組織から評価されず、くすぶっている。そんな人が環境を一新し、目覚ましく活躍するためには、エンプロイアビリティの再考が不可欠です。
ビジョンを持ってプロジェクト、企画が提案できたら、好きな部署、上司のもとで働くことができるようになるかもしれません。

もちろん、社内だけにとどまりません。社外活動でも有効です。副業からスタートして独立、ライフワークになる。そんなキャリアを形成していくという手もあるでしょう。

エンプロイアビリティを突き詰めていけば、くすぶりから脱却できる方法は転職にとどまらず、さまざまな道が見えてきます。
先に言ったように、ビジョンを持って実現に向かって進めば、必ず応援してくれる人が出てきます。そして、一人ではできないこともできるようになる。
新たなチャンスがつかめるのです。

――転職してキャリアアップを目指す。新しい価値を生み出していく。独立してやりたい仕事を始める。エンプロイアビリティを考えると、さまざまな選択肢が広がることがわかりました。全ては自分次第ということなのですね。
最後に、今一度「エンプロイアビリティ」についてメッセージをお願いします。

エンプロイアビリティの定義、あり方を考えすぎることはありません。
仕事を通して自分がやりたいこと、自分らしいことを生かせる力だと捉えてみてください

あなたが考えることが誰かをハッピーにしたり、社会に価値をもたらしたりする。自分のリアルな行動を通して、そして他の人とのコミュニケーションを通して、あなたらしい素晴らしいビジョンができていきます。
その先に、いい仕事、いい人生が望めることでしょう。エンプロイアビリティを考えること。
それは仕事、キャリア、人生を考えていくことなのです。

執筆:佐々木 正孝 編集:阿部 綾奈(有限会社ノオト)

<プロフィール>
佐々木 直彦(ささき なおひこ)
株式会社メディアフォーラム代表取締役。
デジタルハリウッド大学大学院客員教授。
1958年生まれ。
一橋大学社会学部卒業後、リクルート、産業能率大学研究員を経て株式会社メディアフォーラムを設立。25年以上にわたって変革コンサルタントとして活動し、企業の変革、ビジネス創造に関わってきた。主な著書は『キャリアの教科書』『大人のプレゼン術』(PHP研究所)、『プロデュース能力』『コンサルティング能力』(日本能率協会マネジメントセンター)など。

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▼佐々木直彦 公式メールマガジン「ビジョナリーHACK!」

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