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「Lehmannプログラム」の導入に込められた想いとは。京都薬科大学が描く薬学のリーダー像に迫る

愛学躬行(あいがくきゅうこう)の精神を掲げ、多領域で活躍できる人材の育成を志す京都薬科大学。 今回は2020年度からスタートした社会人向け年間プログラム「Lehmannプログラム」について本学の学長、後藤直正(ごとう なおまさ)さんにお話を伺いました。

後藤 直正(ごとう なおまさ)さん

▼ご経歴
京都薬科大学大学院修了、同大学助手、講師、助教授、教授を経て現職。この間、信州大学・医学部および東海大学・医学部での研修、カルガリー大学(カナダ)客員研究員、大阪大学・客員助教授を経験する。
▼現在の仕事内容
京都薬科大学・学長

※当サイトは口コミの一部を掲載しています。

1.リカレント教育の推進を図る「Lehmannプログラム」

ーLehmannプログラムを導入した背景をお聞かせください

Lehmannプログラムとは、卒業して現場で働く薬剤師のリカレント教育を担うプログラムです。
本学も含め、薬科大学の大半が卒業生を対象にした生涯学習を進めており、プログラムの内容のほとんどが一流の先生方による講演が組まれています。 もちろん講演会自体は非常に素晴らしいものなのですが、ふとこの現状に疑問を感じたのがLehmannプログラム導入のキッカケになりました。

まず1つ目の疑問として、現場で働く薬剤師は薬局や病院などで活躍されていますが、科学の進歩にどの程度ついていけているのだろうか?という点が浮かびました。
科学は日々急速な変化を遂げていますので、臨床の場にいるとしても10年、20年と追い続けている方は少ないと思います。 薬剤師は医師と異なり幅広い科目を扱うケースが多いので、それらすべての変化を追うのは難しいはずです。

そして疑問の2つ目として、いくら講義を受けたとしてもそれを臨床の場で発揮できるとは限らないのでは?という点です。 生涯学習は受け身の講義である場合が多く、理解度が見えにくいのです。テストで知識を測ることはできますが、頭でわかることと実際にできることは違います。

この2つの疑問を感じ、どのように問題を解決するか考えた結果、このプログラムの設計に至りました。

2.臨床の課題を解決し、社会に発信できる薬学のリーダーを育てるために

ー「リカレント教育」が課題解決の糸口になるとお考えになったのですね

そうですね。 文部科学省も最近よく言及しているリカレント教育ですが、リカレントは日本語で「逆潮流」といった意味を持ちます。海で波が海岸に押し寄せ、そしてまた沖へと戻っていくような現象のことですね。

比喩的な表現になりますが、波が岸に寄せるのが学部教育であり、臨床を経て再び逆方向に波が広がっていくことが生涯学習において求められるリカレントだと考えています。
薬学部で4年あるいは6年間学び、それと同様の学びを繰り返すのはリカレントではありません。 一度社会に出て現場ならではの問題点にぶつかり、それを解決に導く力をつけることが真のリカレント教育です。本プログラムもその点を重要な目的としています。

これからの薬剤師には、臨床の課題を解くだけでなく、それをまとめたり発信したりすることも求められます。 医師と同様に現場の薬剤師にとって研究は本来責務ではありません。ですが自分たちが職能として行なったことの価値を科学的に示すこと、それを文字で伝えることが重要なのです。

本プログラムでは以下3つを目的として薬剤師の自律駆動を手助けしています。

  1. 臨床の問題を解く力を身に着けること
  2. それらの解に科学的な根拠をつけられるようになること
  3. 研究内容を文字として社会に発信できるようになること

いきなり博士号の取得や論文発表を目指すのではなく、このプログラムを飛躍のステップとして活用いただければと思います。 加えて、薬学のリーダーとしての素養を身に着けてもらいたいという思いもあります。たとえば芸術を医療に活かすなど、薬学を主軸にあらゆる知識や技能を学んだリーダーを育てていきたいですね。

ー具体的にはどういったコースを受講するのでしょうか

現在3つのコースを設計しており、2020年4月から1つ目の「症例報告書作成コース」がスタートしています。

Lehmannプログラムのコース詳細

まずはさまざまな講演やディスカッション、症例研究などを重ねていただき、受講生の輪の作成を促進します。そのあとのコースで個人的な研究、論文の作成なども学んでいただくという流れです。
コロナの影響をふまえて、いまはオンラインと対面を使い分けてプログラムを実施しています。オンラインだと物理的距離が発生しないので遠方の方にも参加いただけるのはメリットですね。

2020年度は12名の方が受講してくださっています。手厚いサポートを実施したいと考えているので、今後も少数精鋭で受講生を募る予定です。 このプログラムに参加した薬剤師には必ず活躍してほしいですし、活躍できるよう私たちとしてもしっかりサポートを行っていくつもりです。それが本プログラムの、さらには本学の信用にもつながると考えています。
また、臨床現場から大学へ教員として迎えられるような人材も育ってほしいですね。大学教員と臨床現場の薬剤師を繋ぐ存在になってほしいという願いもあります。

3.異なる職能が集う医療の現場で、薬剤師ならではの価値を発揮してほしい

ーLehmannプログラムを通じてどのような薬剤師を輩出していきたいですか

学部教育から一貫して、基礎科学(物理化学、生物学、化学)を臨床に活かせる薬剤師を輩出したいと考えています。
薬剤師と医師の大きな違いは、基礎科学を学ぶ時間だと思うんです。医療現場には医師、看護師、薬剤師など異なる職能を持つメンバーによって形成されています。 だからこそ、薬剤師は長年学んできた基礎科学の知識をもって医療の現場に貢献するべきだと考えています。

医師は薬に関する知識を学ぶ機会はそれほど多くありません。それよりも臨床の場でいかに精度の高い診断を下すかといった専門性が求められているからです。 医師ではカバーできない、基礎科学という専門知識を活かして活躍することが何より薬剤師の価値最大化につながると思います。

ー最後に、このプログラムをどのような方に受けてほしいか、メッセージをお願いします

一番は病院・薬局で活躍されている方々ですね。特に薬局の薬剤師にはぜひ学んでいただきたいです。 というのも、大規模な病院であれば学びのチャンスも多いのですが、中小病院や薬局の薬剤師はあまり機会に恵まれていない傾向にあるからです。第一歩を踏み出すためにぜひプログラムを活用していただきたいです。

本プログラムを通じて一種のコミュニティが形成されて、プログラムが終わったあとも出会った仲間たちと切磋琢磨し合ってもらえたらうれしいですね。

京都薬科大学の公式HPはこちら
Lehmannプログラムの詳細はこちら

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