HOP!薬剤師

「医・薬・介」三位一体の重要性と促進

周知のように、我が国の国民医療費は年間42兆円を超えており、今後も急激な高齢化による増加が予想されています。2025年には54兆円を超えるとの試算もあります。   国民医療費42兆円のうち、調剤医療費が7.5兆円と17%超を占めており、平成30年度診療報酬・調剤報酬改定でも、大手チェーン店への対応などを含めた調剤医療費の抑制策が盛り込まれました。   そうした厳しい状況下にある薬局薬剤師ですが、今回の調剤報酬改定で新設された「地域支援体制加算」から、今後の地域医療を支えるための薬局の役割について考えてみたいと思います。

※当サイトは口コミの一部を掲載しています。

地域支援体制加算に見る薬局の役割

2018年度調剤報酬改定で新設された「地域支援体制加算」の算定要件は次の通りです。

  1. 地域医療に貢献する体制を有することを示す相当の実績
  2. ・1年に常勤薬剤師1人当たり、以下の全ての実績を有すること。
    ・夜間・休日等の対応実績 400回
    ・重複投薬・相互作用等防止加算等の実績 40回
    ・服用薬剤調整支援料の実績 1回
    ・単一建物診療患者が1人の場合の在宅薬剤管理の実績 12回
    ・服薬情報等提供料の実績 60回
    ・麻薬指導管理加算の実績 10回
    ・かかりつけ薬剤師指導料等の実績 40回
    ・外来服薬支援料の実績 12回
  3. 患者ごとに、適切な薬学的管理を行い、かつ、服薬指導を行っている
  4. 患者の求めに応じて、投薬に係る薬剤に関する情報を提供している
  5. 一定時間以上の開局
  6. 十分な数の医薬品の備蓄、周知
  7. 薬学的管理・指導の体制整備、在宅に係る体制の情報提供
  8. 24時間調剤、在宅対応体制の整備
  9. 在宅療養を担う医療機関、訪問看護ステーションとの連携体制
  10. 保健医療・福祉サービス担当者との連携体制
  11. 医療安全に資する取組実績の報告
  12. 集中率85%超の薬局は、後発品の調剤割合50%以上

これらの要件は、かかりつけ薬剤師・薬局による地域包括ケアシステムでの地域医療への貢献について評価されるもの、と捉えることができるでしょう。

地域包括ケアシステムとは

地域包括ケアシステムとは、現在国が構築を進めている「医療」「介護」「予防」「住まい」「生活支援」の5つのサービスを包括的に確保できるケア体制のことです。

団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるように体制整備が進められています。

人口が横ばいで75歳以上人口が急増する大都市部、75歳以上人口の増加は緩やかだが人口は減少する町村部等、高齢化の進展状況には大きな地域差が生じています。そのため、地域包括ケアシステムは、保険者である市町村や都道府県が、地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に応じて作り上げていくことが求められています。1)参考記事はこちら

薬局への批判と期待

全国の薬局数は約58,000軒と、コンビニエンスストアの店舗数(約55,000店)を大きく上回っています。しかし、その多くが病院・診療所に隣接した立地にある、いわゆる「門前薬局」です。

門前薬局は病院・診療所を受診した患者さんが、その足で薬を受け取るのにはとても利便性の高い存在です。しかしその立地的優位性が、かえって服用薬の一元的な管理をすることを困難としたり、医薬分業で本来得られるべき服用薬の相互チェックや不適切な処方への介入などのメリットが十分に提供されてこなかったりしたことが問題視されています。さらに、病院・診療所との従属的な関係性やチェーン経営による超高収益化などが批判の対象となってきました。

その一方で薬局には、その店舗数を活かした地域医療への貢献が期待されています。2014年から2015年にかけて発表された「薬局の求められる機能とあるべき姿」と「患者のための薬局ビジョン」では、これまで薬学的な業務が中心だった薬局・薬剤師に対し、在宅医療への積極的介入、地域の医療・介護職種との連携、セルフメディケーションの推進、休日・夜間を含めた健康相談窓口、といった機能が必要であることが明示されました。

そして2016年にスタートした「健康サポート薬局」制度では、これらの機能を満たした薬局が健康サポート薬局として登録され、地域住民の健康をサポートする役割を担うようになりました。

特にこれまで薬局が、受診→処方箋→調剤という流れの中で、「病気になってからのケア」に重点をおいた業務を続けてきたのに対し、今後の医療費増大抑制を目標とした、病気・要介護への進行を未然に防ぐ「予防的ケア」への関与が重要視されています。そのためには「医・薬・介」三位一体での地域包括ケアシステムの構築が不可欠と言えるでしょう。

薬剤師にとっては、薬学的観点での服薬指導やアドヒアランスの確認を通じて、食事・排泄・睡眠・嗜好品といった日常生活習慣や、動作・家族環境・着替え・入浴などの日常生活の状態などをチェックし、医師だけでなく、ケアマネジャーなど介護職へのフィードバックや協力をすることが重要な役割になります。

薬局のこれから

今回の調剤報酬改定は、2025年に向けた地域包括ケアシステムの拡充に向け、そのシステムに薬剤師・薬局が積極的に取り組んでいくべき、との厚生労働省の方針の表れといえます。

これからの薬局には、(1)かかりつけ薬剤師による適切な薬学的管理の提供、(2)あらゆる処方箋に対していつでも調剤サービスを提供できる体制の整備、(3)安全性向上に資する事例の共有(プレアボイドへの取組)等、地域支援等に積極的に貢献することが求められています。
2)参考記事はこちら

薬剤師・薬局の役割のメインは薬学的管理であることには変わりありませんが、地域包括ケアシステムの中で「医・薬・介」の連携の“要”として活動していくこと、それが2025年を見据えた薬剤師の理想の姿であると言えるでしょう。

・参考資料

1)地域包括ケアシステム

2)平成30年度診療報酬改定の概要

この記事を執筆した人
パワーファーマシー
中央薬局 今泉店
薬剤師
船見正範
薬学部を卒業後、製薬企業の品質管理部門を経て、調剤薬局に転職。
社内のDI活動や、薬歴スキルアップ活動などを担当。地域の高齢者の薬物治療の適正化に役立ちたいと、高齢者薬物治療やEBMについて学び、その成果を学術大会などで発表を続けてきた。
現在は、地域の薬剤師仲間と、EBMや処方提案についての勉強会も主催している。
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