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服薬指導を健康サポートの足がかりに

こんにちは!栃木県宇都宮市の保険薬局で管理薬剤師を務めている船見です。


調剤報酬改定が間近にせまり、次第に今回の改定の内容が明らかになりつつあります。


今回の調剤報酬改定で特に注目されているのは、「基準調剤加算の廃止」です。1月24日の中央社会保険医療協議会(中医協)では、これまでの基本調剤加算に代わり「地域支援体制加算」が新設され、地域医療に貢献する薬局を評価する方向性が示されました。


2015年に厚生労働省(厚労省)から「患者のための薬局ビジョン」が示され、2016年には「健康サポート薬局」制度が制定されており、こうしたこの数年の厚労省が推進する地域包括ケアシステムへの薬局への積極的な参加が期待されてきましたが、当然ながら今回の改定もその流れを汲んで、更に前進させるものになりました。


これら調剤報酬改定や患者のための薬局ビジョンついてはまた別の機会で書かせていただきたいと思いますが、今回はその中の1つ、薬局の「健康サポート機能」について考えてみたいと思います。

※当サイトは口コミの一部を掲載しています。

「健康サポート」という言葉の定義について

「健康サポート」という言葉の定義はいろいろとあるかと思いますが、日本薬剤師会の「健康サポート薬局Q&A」によれば、国民の病気の予防や健康サポートへの貢献として、

  • 要指導医薬品等の供給機能や助言体制
  • 健康相談受付、受診勧奨・関係機関紹介 等

があげられています。

ただ、調剤を主体とする薬局やその薬剤師にとって、いきなり「地域医療に貢献する」といわれても、普段の業務からどのように発展させていくのか、実感を持てない方も少なくないのではないでしょうか。特に「病気の予防」や「健康相談」などについて、取り組みたくてもうまく取り組めない、と感じる薬剤師の皆さんも多くいらっしゃると思います。

でも実は、調剤を主とする薬局であっても、そうした取り組みはそれほどハードルが高いものではありません。むしろ、調剤を主とする薬局だからこそのアプローチの仕方があるではないでしょうか。

「患者さん」はいつから「患者さん」なのか

少し話は変わりますが、皆さんのところに処方箋を持っていらっしゃる「患者さん」は、いつから「患者さん」だったのか、考えられたことはありますか?

高血圧や脂質異常症、糖尿病などの患者が受診する場合、その患者さんは健康診断や、別の病気の治療で異常値を指摘され、受診を促される、というケースが多いと思いのではないでしょうか。ということは、受診する1〜2年前からその傾向にあった、といえる場合が多いと思います。つまり、高血圧、糖尿病、脂質異常性など、いわゆる「境界値」と呼ばれる範囲にある方が、徐々に治療が必要な状態となり、「患者さん」となっていく訳です。

皆さんのところにいらっしゃる患者さんを見ても、高血圧を治療中の方であれば、コレステロールの値や血糖値が境界値となっている方がいらっしゃるのではないでしょうか。

これまでは、ある日突然、血圧の薬にコレステロールの薬が追加になり、「あ、この患者さんはコレステロールが高くなっていたんだ」と気づく場合が多かったのではないか、と思います。

薬局薬剤師だからできること

しかし振り返ってみれば、毎月の血圧の薬をお渡しする時に「健康診断は受けていますか?」「高血圧以外で何か気になることはありませんか?」と声をかけていれば、事前にその情報を得ることができたかもしれないのです。これは、服薬指導の時間が持てる、処方箋を調剤している薬剤師だからこそできるチェック、ということができるのではないでしょうか。

その情報を得られれば、コレステロールや血糖の値が、境界値になっている場合に、特定保健用食品(トクホ)などの健康食品や生活指導を患者さんに紹介することで、生活習慣病の発症を少しでも遅らせることができる、という取り組みができると思います。

そして、そのことで患者さんとの信頼関係ができあがれば、次は患者さん本人だけでなく、ご家族のことも相談してくれるようになり、ひいては地域の住民の皆さんの健康をサポートできる活動への足がかりになってくると思います。これは、冒頭の調剤報酬の動きを見るまでもなく、薬剤師の将来の重要な役割になってくると思われます。

薬局薬剤師への風当たりが強い現状ですが、地域包括ケアシステムの中で、地域の健康サポートができるよう、まずは目の前の患者さんとしっかり向き合い、治療中の疾病だけでなく、その方の“健康状態”について、しっかりと聞き取りをしてみることから始めてみてはいかがでしょうか。

この記事を執筆した人
パワーファーマシー
中央薬局 今泉店
薬剤師
船見正範
薬学部を卒業後、製薬企業の品質管理部門を経て、調剤薬局に転職。
社内のDI活動や、薬歴スキルアップ活動などを担当。地域の高齢者の薬物治療の適正化に役立ちたいと、高齢者薬物治療やEBMについて学び、その成果を学術大会などで発表を続けてきた。
現在は、地域の薬剤師仲間と、EBMや処方提案についての勉強会も主催している。
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