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賃上げブームの真相【専門家が解説】初任給だけで既存社員は上がっていない?賃金アップの年代差を正社員1,109人に調査
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実質賃金がなかなか上がらない中、初任給をアップする企業が増えています。
なぜ、実質賃金が上がらないのに初任給は上げるのか、初任給アップの狙いと弊害など、近年の企業の賃金事情について、株式会社人材研究所代表で組織人事コンサルタントの曽和利光さんに伺いました。
話を聞いた人
株式会社人材研究所
代表取締役社長
曽和利光(そわ としみつ)
1995年、京都大学教育学部教育心理学科卒業後、リクルートで人事コンサルタント、採用グループのゼネラルマネージャーなどを経験。その後、ライフネット生命、オープンハウスで人事部門責任者を務める。2011年に人事・採用コンサルティングや教育研修などを手掛ける人材研究所を設立。
『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)、『部下を育てる上司が絶対に使わない残念な言葉30』(WAVE出版)、『シン報連相~一流企業で学んだ、地味だけど世界一簡単な「人を動かす力」』(クロスメディア・パブリッシング)など著書多数。
取材・ライティング
伊藤理子(いとう りこ)
フリーエディター・ライター。経済専門紙記者、日経ホーム出版社(現・日経BP)編集、金融情報記者、リクルート「週刊B-ing」「リクナビNEXT」編集などを経て、フリーに。Webサイトや情報誌などで仕事、キャリア、ビジネス、教育分野などのテーマを中心に取材・執筆活動を行う。
※当サイトは口コミの一部を掲載しています。
年収は本当に上がっている?賃上げブームの実情
大手企業を中心に、初任給をアップする動きが高まっています。
一部では「賃上げブーム」などともいわれていますが、実際はどうなのでしょうか?現状を専門家である曽和氏に解説していただきました。
初任給は上がっているが、既存社員の賃金は上がっていない
我々の生活を支える「実質賃金」は、長らく低水準が続いています。
実質賃金とは、労働者が受け取った給与(名目賃金)から物価の影響を差し引いた賃金のこと。
働き手1人当たりの実質賃金は近年低下を続け、2024年5月まで実に26ヶ月連続のマイナスを記録しました(※1)。6月にわずかながら27ヶ月ぶりのプラスに転じたものの、まだまだ本格的な上昇基調に入ったとはいえません。
(※1)厚生労働省「毎月勤労統計調査」(令和6年5月分結果確報)
そんな中、大手を中心に新卒初任給アップに踏み切る企業が増えています。
労働行政研究所の「2023年度新入社員の初任給調査」(※2)によると、東証プライム上場企業157社のうち70.7%の企業が初任給の引き上げを行っています。
(※2)一般社団法人労務行政研究所「2023年度 新入社員の初任給調査」
初任給は上がっているのに、実質賃金は増えていない――この現状に不平等感を覚える既存社員も少なくないようです。
なぜ初任給アップの動きが高まっているのか
なぜ初任給アップに踏み切る企業が増えているのか。その理由は「新卒社員が採れないから」に尽きます。
リクルートの就職みらい研究所が発表した「就職白書2024」(※3)によると、2024年卒の新卒採用において「採用予定数を充足できた」と答えた企業は36.1%にとどまり、調査開始の2012年卒以来で最低値を更新しました。応募者数の減少などで約6割の企業が未充足という結果となり、採用競争の厳しさが見て取れます。
そのため、少しでも自社に注目してもらい、応募先候補に加えてもらうために、初任給アップに踏み切る企業が増えているのです。
初任給と実質賃金が連動していない理由
「初任給はアップしているのに、既存社員の実質賃金が上がらない」というのは一見いびつに見えますが、実は至極当然のことです。
企業の「給与の原資」は基本的に一定であり、どこかを増やせばどこかを減らして差し引きをゼロにしなければならない「ゼロサム」という仕組みになっています。
初任給を上げたのであれば、その分を既存社員の賃金から取ってこなければなりません。実際、初任給が上がった分、中堅やベテラン層の賃金は据え置き、もしくは実質減少しているはずです。
景気の急回復が見込みにくい以上、給与の原資が増えることは考えにくく、新卒採用に注力している企業においては「初任給は上がるのに実質賃金は上がらない」傾向は今後も続くと見られます。
初任給に惹かれても、入社後に上がり続けるとは限らない
ただ、高い初任給に惹かれて入社を決めても、入社後に順調に昇給できるとは言い切れません。前述したとおり、初任給を上げた分は、既存社員の賃金にしわ寄せがいくからです。
給与額そのものを減らすと反発が必至であることから、多くの企業では人件費の総額を維持するために昇給率を減らしたり、昇給・昇格する人数を減らしたりするなどして、「気づかれないように」既存社員の人件費を調整しています。
つまり、「成果を上げた人は昇給するけれど、上げていない人は昇給しにくい」状況が続くと見られます。
高い初任給で入社した新入社員も、1年後には既存社員です。初任給目当てで入社しても、仕事で高い成果を上げ続け「昇給できる人の枠」に入らないと、給与がなかなか上がらない可能性が高いでしょう。
企業の正社員1,109人に賃上げの実態調査!初任給アップの本音など年代別にまとめ
実際に賃上げされているのかを知るため、企業で働いている1,109人にアンケート調査を実施。年収は上がっているか、いくら上がったか、また初任給アップについての本音を聞きました。
調査対象:企業で働く正社員1,109人
調査地域:全国
調査期間:2024年8月7日〜8日
調査主体:ミライトーチ編集部
調査委託先:crestep
新卒から年収がアップしている人は67.8%いる!しかし変わっていない人も20.9%と少なくない
正社員1,109人に対し「新卒から今までで年収はアップしたか?」と聞いたところ、「かなりアップしている」24.9%と「少しアップしている」42.9%を合わせて67.8%の人がアップしているという結果でした。
年代別に見ると、やはり年代が上なほど年収が上がっている傾向ですが、60代ではむしろ「下がった」人が22.0%いました。これは定年退職した人も含まれていることが理由と思われます。
年収のアップ額は10万円以下が一番多いという結果に
年収がアップした752人に対し「新卒時と比べてどのくらいアップしたか?」と聞いたところ、一番多い回答は「10万円以下」で17.1%、次は「11〜50万円」の13.5%と少額しか上がっていない人が多いという結果になり、100万以下の合計は43.8%と多数派でした。
アップ額は年代が上がるにつれ大きくなっており、昔ながらの年功序列のように、年齢が上がることが年収アップにつながっていると見て取れます。
年収がアップした理由1位は「年齢が上がった」
年収がアップした752人に対し「年収がアップした理由」を聞いたところ、一番多い回答は「年齢が上がった」でした。
また理由の3位から5位は「転職によるもの」であり、会社や業界を変えることで年収アップを目指す人も多いという結果になりました。
初任給アップの動きについては許容している意見が多い
企業の正社員1,109人に対し「初任給アップの動きについてどう思うか?」を聞いたところ、一番多い回答は「とても良い」で34.0%でした。
次に多い回答が「若手確保のため仕方ない」の33.5%であり、多くの人が初任給アップの動きを許容していると見て取れます。
年代別に見ると意外にも意見に差がなく、初任給が上がった当事者である20代も、賃金が上がらない中堅層も意見としてはズレがないようです。
なかなか賃金が上がらないならば、自身の市場価値を上げにいこう
これを読んでいる読者の中には、なかなか賃金が上がらずモチベーションが下がりつつある…という人もいることでしょう。
そんな場合の考え方や対処法について専門家の曽和氏が紹介します。
賃金アップを目指して転職するのは得策とはいえない
ただ、企業は既存社員の賃金を上げていないわけではありません。説明したとおり、昇給率を下げたり、昇給する人・しない人を厳選したりして対応しています。
したがって、「賃金がなかなか上がらない」のであれば、仕事で高い成果を出せていない、会社が期待する働きができていないという可能性が高いでしょう。
賃金を上げたいならば、今の環境で成果を上げるべくさらにがんばるか、自身の経験・スキルを買ってくれる企業に転職するしかありません。
とはいえ、賃金を上げたいという理由だけで転職に踏み切るのは、あまりおすすめできません。
経験者採用の場合、前職の給与+αの額で年収提示する企業が多いため、「自分の経験を評価してくれた!」とうれしくなるかもしれませんが、自身の市場価値そのものを高めないと、転職後しばらくすると再び賃金が頭打ちになる可能性があります。
転職に踏み切る前に、まずは自身の市場価値を高める努力をしてみましょう。その結果、転職しなくても今の環境で高い成果を上げられるようになり、昇給する人の枠に入ることができるかもしれません。
複数の強みを磨き希少価値を高めれば、市場価値が上がり成果も出しやすくなる
市場価値を高めるには、自身の希少性を高めるのが有効です。
1つの分野を追求するだけでなく、新たな能力開発に臨み自身の引き出しを増やすと、それらを掛け算することでより高い希少性を生み出すことが可能です。
例えばですが、ビジネス英語ができるだけで、どの職種でも年収が1.5倍程度に上がるといわれています。
営業職は世の中にたくさん存在しますが、「英語が堪能な営業」となると数はがくんと減り希少価値が高まるでしょう。さらには、「中国語もできる」となればさらに希少となり、年収も跳ね上がるはずです。
語学以外でも、「〇〇分野に特化した営業」など、専門知識をとことん深めることで希少性を高めるという方法もあります。
今の環境で、自分ならではの「プラスアルファの強み」を磨く努力をすれば、今の環境でも成果も上げやすいうえ、その経験が転職でも有利に働くようになるでしょう。
成果を上げているのに賃金が上がらない場合は「昇進直前」にある可能性も
高い成果を上げがんばっているのに、なかなか賃金に反映されない…と不満が募っている場合は、もしかしたら昇進が近いのかもしれません。
自身の能力や成果、がんばりと、賃金とのギャップをもっとも感じるのは「昇進する直前」であるといわれています。もしかしたら、昇進が目の前に迫っているかもしれないのに、勝手に見切りをつけて辞めてしまうのはもったいないこと。決断する前に、自分はどの位置にいるのか、昇進は近いのか、確認しておきましょう。
年功制が残っている企業であれば、先輩たちの昇進パターンを見ればおおよその見当がつくはず。もしくは、上司に「私はいつごろ昇進できるのでしょうか?」とズバリ聞いてみてもいいでしょう。上司であればそのタイミングはわかっているはずであり、デキる部下には正直に教えてくれると思います。
昇進タイミングが近いのであれば、辞めるのは早計です。今の環境でもう少しがんばれば、昇進して賃金が上がるだけでなく、その後の可能性もぐんと広がります。
転職市場においては、マネジメント経験者のマーケットとそうでない人のマーケットが明確に分かれています。昇進するまで待てば、「マネジメント経験者のマーケット」に入ることができ、より好条件の企業に転職できる可能性も高まるでしょう。
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